禺画像]
昨日もユウちゃんは部屋から出て来なかった。
本当に素直で賢くて、私も夫もユウちゃんに声を荒げた事なんて一度も無い。それなのにある日突然。学校で何かあったかと尋ねても先生はとぼけるばかり。様々な機関に相談に行ったけれど、納得のいく答えは得られなかった。中には私達を罵る人まで。
あんな所に頼らなくたって、お母さんはちゃんとわかってるの。
昨夜、夫と話し合った。私達の息子だもの、私達が信じなければ誰が信じると言うの。いつまでも待とう。そして声を掛け続けよう。きっといつか笑顔で私達の前に出てきてくれる、お父さん、お母さん、今までごめんなさい、そう言ってくれる日が必ず来る。
また朝が来た。ユウちゃんの部屋に行かなきゃ。ユウちゃんは本当はいい子だもの。いつかきっと、わかってくれる。
足音が聞こえる。朝だ。僕は頭から布団を被った。
褒められる事が単純に嬉しかった。だから「いい子」でいようとしたんだ。でも「いい子」のハードルは際限なく上がっていった。僕が初めて躓いた日、両親は怒らなかった。
怒らなかったけれど、許してもくれなかった。
その日から両親の言葉は変わった。貴方ならできるはず。私達の息子はそんな事で挫けるような子じゃない。さあ、頑張りなさい。できない。頑張ってもできない。僕はパニックになって逃げ出した。ドアの向こうで両親は穏やかに、あくまで穏やかに囁き続けた。
私達の息子はもっと素直で賢いの。こんな事で逃げ出すような子じゃない。
返して。
私達の息子を返して。本当の息子を返して。そんな弱虫じゃない、素直で賢くて私達の言う事を何でも聞く私達の息子を、返して。さあ、返しなさい。
やめてくれ。叫んでも耳を塞いでも聞こえる、毎日ドアの向こうから響く言葉。
返せ。
さあ返せ。
私達の息子を。
やめろ。
じゃあ僕は何だ。ここにいる今の僕は。
もう、耐えられない。
ノックが響く。カッターナイフがぱちぱちと音を立てる。
「人に非ず」ボツネタ第2弾、でした。