禺画像]
「噂には聞いてたよ。馬鹿が一人いるってね」
男は楽しそうに口の端を上げた。高級そうなスーツには皺の一つもない。
「何人、殺した」
俺は奥歯を噛み締める。破れたTシャツから泥が落ちる。
「今まで、罪も無い人間を、理由もなく」
「さあね」
微かな月の光以外、向かい合う二人を照らすものは無い。
何度も見てきた。いたぶられ、辱められ、命が尽きてもなお苦痛に歪む顔を。折られ、千切られ、抉りだされ、放置された身体を。どす黒い赤に染まった野の花を。
他の人間と同じように俺もただ恐れ、目を背け、逃げ隠れた。あの日が来るまでは。
「今の言葉、そっくり返してやろう。何人殺した」
「えっ」
「私のような人間をいくらも殺しただろう。さあ、何人だ」
「お前達は人間じゃない」
男がクックッと喉で笑った。
「人間だよ。君と同じようにね。人間は生まれつき心に怪物を飼っている。長い間それを奥底に押し込めて知らない振りをしているうちに、本当に忘れてしまう。私達はただ怪物に気付いただけだ。私達を怪物と呼ぶなら、人間は全て怪物だ」
「じゃあ何故、人間を殺す」
〓〓あの日、
「本能としか言いようがないね。私達は無差別に殺しているわけじゃない。本能が死ぬべき人間をちゃんと見極める。私達はあらゆる欲望を満足させた後に殺す。それだけだ」
〓〓俺は見てしまった。
「死ぬべき人間なんていない!」
〓〓死んだ後もなお辱められるかのように、
「なら、君のしようとしている事は」
〓〓陵辱の跡を見せつけるかのように、放置されたあいつを見た時、
「黙れ!」
〓〓俺の中で、何かが弾けとんだ。
俺は男に向かって走った。俺と男の身体が触れた瞬間、男の身体は形を変えた。固く盛り上がり血の気を失った皮膚、その姿にはもう人間の面影はない。
〓〓怪物。
皮膚同士がぶつかり合いがちりと音を立てる。異形と化した俺の拳が相手を捉えたその時、月は雲に隠れ辺りは真の闇と化した。
最近はボツネタすら出なかったんですが、「人に非ず」は没ネタが山のように出たんで、久しぶりに「ボツネタの沼」発動です。