四月生まれ(要するに誕生日記念)
2006-04-22


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誕生日にいい事なんてあった試しが無い。
恭子はそう言ってため息をつく。

それでなくても木の芽時って言うんだっけ?気候が変わる頃だから体調も精神も不安定になる。秋はどんどん寒くなるからダウンしていくだけで比較的楽。でも春はどんどん暖かくなっていくから変にアッパーになって制御が効かなくなる。歩かない馬と暴れ馬、乗るならどちらが楽だと思う?分かるよね?

俺はただ曖昧に頷く。

子供の頃からそう。四月に誕生日なんて碌なもんじゃない。毎年クラス替えがあって、クラスが変わって友達が出来る前に誕生日が過ぎる。その後で友達が出来るでしょ?誕生日を訊かれる。「あー、過ぎちゃったね」って、それが毎年。本当、馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。

「そりゃ残念だったね」俺はグラスの中の氷をかき混ぜる。

四月の誕生石って知ってる?ダイヤモンド。ダイヤなんていつ生まれたって欲しがる石じゃない?しかも気軽に買える、気軽に貰える石じゃない。それってなんだかつまらなくて、ありふれた名前のようにつまらなくて、真珠やトルコ石がどんなに羨ましかったか……ねぇ、聞いてる?

氷がからからと音を立てる。慌てて覗いた彼女の目が座っている。

去年だって、一昨年だって、いい事なんて何も無かった。だから、もう期待しない事にしたんだ。今日はなんでもない普通の日で、昨日や明日と同じような日で、そう思う事にした。だから、ま、どうでもいいんだ。

(どうでもいい事なんてないだろ)
そんな事を言いながら恭子は多分、毎年儚い期待をして、裏切られた事ばかりを覚えて、思い出して、それでも儚い期待をしているから、今、俺の前にいる。

自分の誕生日を忘れるような奴は、ドラマの中にしかいないもんさ。

恭子はカウンターに肘をついて頭を手のひらで支えている。ちょっとだけ息を呑んで、俺は恭子の腰を引き寄せる。
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