2006-03-22


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電車を降りると微かに焦げ臭い匂いが鼻を突いた。
閉鎖された東口の方に回り込むとちょうどいい場所に高架の通路がある。現場に面した壁は一部ペンキが変色し剥がれ落ち、炎の凄まじさを感じさせる。
階段を上って見下ろしたその場所は既に片付けられて更地になっていた。瓦礫を寄せるショベルカーの下には黒い灰が色濃く残り、風の中にちらちらと混じる雪とコントラストを成している。その向こうにはかろうじて半分焼け残ったコンクリートの建物が内臓を晒したままで立ちすくんでいる。
元の姿を思い出せない事に私は気付いた。

「ひどい事するよねえ」
いつの間にか私の横に来ていた年配の女性が私に話しかけた。
「もうね、二十代の頃から火ぃつけようたって。もう死刑にしたらいいのにねえ」
刑務所に戻りたい。
七十歳を過ぎた犯人のそれが理由だったらしい。私は返事に困って曖昧に笑った。
彼女も遠方からわざわざ駅を見に来たのだと言う。ぽつぽつと話をした後軽く頭を下げて彼女は階段を下りた。

もう十年以上も前、暇はあるが金はすっからかんの学生だった私は七時間以上かけて鈍行電車で帰省していた。電車は必ずこの駅で乗り換えになる。空いた時間で構内のうどん屋に駆け込み、腹を温めてから電車に乗ったものだった。
うどん屋の安否を確かめる事、実はそれがこの駅に来た目的である。
うどん屋はぎりぎりで焼失を免れ変わらずに営業していた。立ち食いカウンターも安っぽいベンチも昔のままだ。かけうどんを一杯啜り込み、私は帰途につく事にした。

帰りの電車の中でふと気付いた。駅は全て建て直すことになるだろう。うどん屋もあのままではいられないのだ。
何もかもが昔のままではいられない。
でも、多分、それは悪い事じゃない。
二列シートで私の正面に座った女性が口を歪めて鼻を啜るような仕草をした。その顔が「福笑い」にそっくりだったので私は心の中で微笑んだ。正月早々めでたい物を見た気分になった。
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